国道1号を保土ヶ谷方面から戸塚方面に抜ける長い坂道は権太坂と呼ばれている。
なんで、権太坂と呼ぶかについて、司馬遼太郎先生はその昔権太という百姓が居た由と書いておられたが、"権太"とは平安末期関東で封建領主が繁衍した頃の権太守、詰まり副官という意の武蔵国司権官に就いた封建領主に因む。
権太坂を戸塚方面へ下ると平戸の地名を見る。
戸塚区平戸と北接する品濃町との境に、江戸幕府が整えた東海道の一里塚を今に遺している。
一里塚を遺す地は旧武蔵国久良岐郡と旧相模国鎌倉郡との国境を成していた。
斯かる平戸の地を往古には「たいらこ」と訓じた。
鎌倉幕府が生誕する前夜、武蔵国久良岐郡を押さえた封建領主が平児玉の肩書を系図に載せた一族であった。
その眷属が平安朝廷下で武蔵国権官に就いている。
だから、戸塚区平戸の地は後三年の役に従った鎌倉景政の卑属が支配する地と接した平児玉流一族のフロント・ラインであった。
片瀬江ノ島海岸に注ぐ境川を遡ると藤沢市街の外れで川は分岐し、大船方面へ向かって柏尾川が流れる。
湘南海岸へ向かって南流する柏尾川は反転し、源流となる港南区日野の地から北へ流れ、平戸の地で流れを変える。
蒙古襲来を見た13世紀央、平戸の地を治めていた封建領主は幕命に拠り長崎県下の平戸島へ渡り、現地で海の男たちを盛んに督励した。